現場を知り尽くした職人から、
後進を育てる上司へ。
Y係長
いかに機械を止めず、
サービス残業をせずに定時で帰るか。
それが自分の中でのルールでした。
「実は、家から近かったから入社したんです」と照れくさそうに笑う彼の周りには、自然と人が集まってきます。長年、旋盤ラインの最前線で腕を振るい、独自の工夫で現場を回してきた彼はいま、「設備改善」そして「後進の育成」という新たなミッションの矢面に立っています。
現場を知り尽くした職人としての顔と、部下の成長に目を細める上司としての顔。泥臭くも前向きに会社を変えていこうとする彼の、飾らない言葉と人間味あふれる魅力に迫りました。
「家から近い」で始まった、旋盤ラインとの長い付き合い
正直にお話しすると、一番の理由は「自宅から近かったから」なんです(笑)。最初はどんな工場なのか、何を作っているのかも詳しく知らずに入社しました。
そこから長年、旋盤の製造ラインで現場作業に没頭することになります。同じラインで長く働き続けてきましたが、途中で「他のことをやりたい」と本気で転職を考えたことはほとんどありません。とにかく、目の前にある自分の仕事に集中して取り組む毎日でしたね。
密かなライバル心と、「定時で帰る」ための美学
一番こだわっていたのは、設備の「可動率(べき動率)」を絶対に下げないことです。実は当時、隣の部署に対して密かに競争意識を持っていまして。「あっちには負けない、もっと効率よく生産してやるぞ」と心の中で燃えていました(笑)。
効率を極める独自のこだわり
「いかに機械を止めず、かつサービス残業をせずに定時で帰るか。それが自分の中でのルールでした」
決められたノルマをきっちり達成した上で、絶対に定時で帰る。そのために、休憩時間を少し前倒しにしてでも機械を動かし続けるなど、自分なりに工夫を重ねていました。効率を極めるゲームのような感覚で、現場の仕事を楽しんでいたんだと思います。
「急に放たれて」知った、中間管理職のリアルな壁
設備の改善や治具の検討、不具合の解消などをメインに担当しています。長年モノづくり一筋でラインに立っていたので、現場から離れた直後は「急に放たれて、一体何をすればいいのか」と戸惑う時期もありました。また、新しい業務ならではの苦労も多いです。最近は機械メーカーなど社外の方とやり取りする機会が増えましたが、これまで経験してこなかった交渉業務なので難しさを感じています。
例えば、新しく導入したチップコンベアなどの装置で不具合が続いている件ですね。メーカーとの調整や早期解決へのプレッシャーがあり、正直ストレスを感じることもあります。(笑)それに、費用の問題が絡むと自分の一存では判断を下せません。現場からの「早く直してほしい」という要望と、経営陣の意向の間で板挟みになることもあり、中間管理職としての難しさを日々痛感しながら奮闘しています。ただ、日々の小さな改善を積み重ねていくこと自体には、現場時代とはまた違う大きな楽しさを感じています。
「伝える難しさ」の先にある、密かなやりがい
後輩や部下との関わり方も大きく変化しました。最近は、自分がこれまで培ってきた知識や技術だけでなく、作業分析など新しく学んで得た知識も含めて、部下に教える機会がぐっと増えました。ただ、自分が感覚でやってきたことや新しい手法を「相手が理解できるように伝える」というのは本当に難しくて……。どう言えば伝わるのか、日々頭を悩ませています。
一方で、教えたことを部下がうまく吸収してくれて、それを実際の現場改善に活かして「成果」を出してくれた時は、あえて口には出しませんが、心の中で「よし!」とガッツポーズをしたくなるような、密かなやりがいを感じています。現場時代は「隣の部署に勝つぞ」と密かに燃えていましたが、今は「部下の成長」に密かな喜びを感じるようになりました。自分が手を動かしていた時とは違う、新しい仕事の楽しさを見つけられた気がします。
現場を支える「助っ人」としての顔と、未来への期待
普段は生産には関わっていませんが、欠勤者が出た場合には、昼休憩の時間帯などに1時間ほど「助っ人」として現場に入ることがあります。うちの工場は従業員を少し多めに配置して、誰かが休んでもカバーできる体制を組んでいます。休憩時間をずらして機械を止めない工夫もしていますし、私以外にも各工場に「フリーで動ける社員」が配置されているので、非常に柔軟な対応ができているのが強みですね。
当社のような量産を行う中小企業は珍しく、大きなプレス機など他ではなかなか触れない設備を扱える面白さがあります。そして何より、手作業の部分がまだ多く「自動化の余地」がたくさん残されているんです。今、社内では現場の改善が急速に進んでいます。与えられた仕事をするだけでなく、自ら様々なことを変えていきたい、これから自動化を進めていきたいと考えている人には、これ以上ないほどやりがいのある環境です。今後、現場を離れて私のように改善業務を担える人材がどれだけ育つかが鍵になります。柔軟な発想で新しい環境に順応できる若い世代には大いに期待していますし、一緒に会社を面白く変えていける仲間が増えてくれたら嬉しいですね。
【編集後記】
「実は家から近かったから」と照れ笑いを浮かべる気さくなお人柄。しかし、その言葉の裏には、機械を止めず、かつ定時で帰るために試行錯誤を重ねてきた「本物の職人魂」が隠されていました。
現場の最前線で「隣の部署には負けない」と密かに闘志を燃やしていた彼が、今は中間管理職という新たな壁にぶつかりながらも、部下の成長に「よし!」と心の中でガッツポーズをしている。その人間臭くも愛情深い変化に、取材陣も思わず胸が熱くなりました。